4日目:単一細胞と局所回路のダイナミクス 担当:深井朋樹、伊藤浩之 1.ねらい ここでは脳神経回路を構成する基本要素である単体ニューロンやそのシナプス結合 のダイナミクスについての理解の深化を目指す。さらに大脳皮質における局所回路 の解剖学的構造や電気生理学的特徴、さらにそこで見られる神経発火の同期モデル や理論的解析手段について講義する。 2. 各講義の関連 (1)単一神経細胞の電気生理とモデル Youngnam Kang (2)単一細胞とシナプス可塑性のダイナミクス 深井朋樹 (3)大脳皮質の局所回路      金子武嗣 (4)ニューロン・ネットワークのダイナミカルな振る舞い 青柳富誌生 (1)では主に大脳皮質の錐体細胞を中心に、神経細胞の持つ種々のイオン電流と それが生み出す多様な電気生理学的性質について学ぶ。基本的実験解析手法として 細胞内記録法や薬理学的手法との組み合わせについて講義する。時間が許せば多種 のイオン電流を取り込む数学的モデルについても簡単に触れる。 (2)では単一ニューロン間の相互作用や学習形態を決定するシナプスでの信号処理 に関して、ダイナミック・シナプスや非対称LTP/LTDなどの最近の実験的知見を中 心に紹介する。また理論的推測を交え、そのようなシナプス結合でのダイナミックな 情報処理が創出する情報処理についての考察を行う。大脳皮質は情報処理のモーダリ ティにあまり依存しない回路構造を持つことが知られている。 (3)では多種の興奮性、抑制性ニューロンにより構成される大脳皮質局所回路の解 剖学的構造や電気生理学的性質に関して、現在までに得られた知見を講義する。特に 遺伝子操作などを含む最新の実験的手法などについても講義の中で紹介し、それによ って明らかになった事実や現手法の限界などについて考察する。 (4)では単体の神経細胞や、局所神経回路などがさらに相互に結合する回路の振る 舞いについて考える。そのような大規模神経回路での発火状態を位相振動子法などに より理論的に調べる手法を議論し、具体的問題への適用例などを紹介する。特に40 Hzの同期振動解や非同期解の存在、安定性を議論する。 3. 論点 いわゆる0-1のスピンモデルが単純すぎると考える研究者は、次の段階として積分 発火型ニューロンによるスパイク機構を考慮したモデルを考えるだろう。しかし積 分発火型ニューロンですら実際のニューロン(Hodgkin-Huxley型ニューロン、コ ンパートメントモデル)を極めて大胆に線形化したモデルにすぎず、問題によっては 良い近似を与えるとは限らない。神経回路をモデル化してその機能を論じる場合、 そこで使われる数学的記述のレベルには多様性があり、記述のレベルに応じた適用 限界が存在する。むろん全ての実験事実を取り入れたモデルを作ることは不可能で あるし、また出来たとして機能を本質的に理解する助けになるかは甚だ疑問である。 しかし常に限界を認識する必要はあろう。 4. 文献 1. Gray CM, McCormick DA (1996) Chattering cells: superficial pyramidal neurons contributing to the generation of synchronous oscillations in the visual cortex. Science. 274(5284): 109-113 2. Wang-XJ (1999) Fast burst firing and short-term synaptic plasticity: a model of neocortical chattering neurons. Neuroscience. 89(2): 347-62 3. Tsodyks M and Markram H (1997) The neural code between neocortical pyramidal neurons depends on neurotransmitter release probability. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94: 719-723. 4. Bi, G-q., & Poo, M-m. (1998) Synaptic modifications in cultured hippocampal neurons: dependence on spike timing, synaptic strength, and postsynaptic cell type. J Neurosci. 18: 10464-10472. 5. Douglas R and Martin K. 'Neocortex', In: 'The Synaptic Organization of the Brain. 4th ed.' edited by G. M. Shepherd, Oxford University Press, New York, 1998, pp. 459-509.