5日目:同時発火とテンポラルコーディング 担当:伊藤浩之 1.ねらい 脳の情報処理メカニズムのシステムレベルでの研究の必要性を講義する。実験技術、 解析法、モデル、符号化パラダイム、実際のシステムレベルでの実験などに関して検 討する。 2.各講義の関連 (1) 多細胞同時記録実験の必要性と方法 -現状と問題点-  櫻井 芳雄 (2) 多細胞同時記録データの統計解析法 伊藤 浩之 (3) Cortical Dynamics and Neural Computation -Experiments, Analysis and Models, Ad Aertsen (1)の講義では、実際に多細胞同時記録を行なっている研究者の立場から、この新たな 研究法の意義や特色および問題点などを概観する。実験家にとっては実践的な技術の 理解、理論家にとっては現時点でどのレベルの実験データが得られるのかを把握する ことは、生理学的にplausibleなモデル作りにとって重要である。(2)の講義では、得 られた多細胞同時記録データの統計解析法の現状と問題点を概観する。特に複数細胞 間のスパイク発火の時空間的関係性に着目する情報符号化の実験的検証にとっては、 データの何の特徴に着目し、どのような解析法でそれを視覚化するのかを理解するこ とが重要である。(3)の講義では、(1)と(2)で習得した知識をもとに、実際の実験デー タの解析例を紹介する。システム的な神経科学研究では、モデルおよびパラダイムと 多細胞同時記録実験データ、そしてこの二つをつなぐ解析法の三者の有機的な相互作 用が大変に重要である。 3.論点 最近の多細胞活動同時記録技術の向上により、細胞活動のネットワークレベルでの実 験解析と情報処理メカニズムのシステムレベルでの解明に強い関心が集まっている。 従来の単一細胞の平均発火率の解析ではなく、多細胞のスパイク活動の同時記録デー タが提供されるに至って、新たな情報符号化(コード)の概念が登場している。これ は「関係性コード」と呼ばれるものであり、「情報(機能)は必ずしも、単一細胞レ ベルに局在しない」というパラダイムを基とする。関係性コードのパラダイムを基に 脳の情報処理を研究する為には、得られる多細胞スパイク活性データから神経回路網 での細胞同士の時間的関係性、すなわち時空間構造を解析するための強力な時空間解 析法が不可欠である。また、神経回路網の時空間構造を情報処理メカニズムと対応さ せて議論する為には、情報コードに関する説明仮説(パラダイム)の構築が必要とな る。 4.参考文献(1-3は必読論文) 1. Gerstein, G. L., M. J. Bloom, I. E. Espinosa, S. Evanczuk, and M. R. Turner (1983) Design of a laboratory for multineuron studies: IEEE Transactions on System, Man, and Cybernetics, SMC-13: 668-676. 2. Gerstein, G. L., P. Bedenbaugh and A. M. H. J. Aertsen (1989) Neuronal Assemblies, IEEE Trans. Biomed. Engineer. 36 4-14 3. 櫻井芳雄(1998):多数ニューロン活動の同時記録法、脳の科学、20, 1233-1237 4. 櫻井芳雄:「ニューロンから心をさぐる」(岩波書店、東京, 1998)