開校にあたって 校長 塚田 稔 レポータ:妻藤 公啓   神経回路実験には非常に長い伝統がありまして、微小電極に始まり、測定 法も発展していまして、非常にオーソドックスな分野になっていますが、実は 一方で、理論が非常に重要なウェイトを占めています。実験をやるにしても、 理論が分かって、あるいは理論的な道具立て、手法が分かって研究しなくては なりませんし、一方、理論の人も実験系がよく分かって理論を組み立てなくて はなりません。やはり、両方の領域を知った上で新しい理論なり実験の枠組み なりを考えなくてはならない、このように考えています。そういうことで、こ のようなチュートリアルを開いたわけです。   実は私は最近、ダンスに凝っています。フィギュアスケートのペアーでも 良いですし、サルサやタンゴのダンスでも良いのですが、実はやってみるとこ れが非常に面白いのです。これからちょっと私なりに習得したことを説明致し ます。 なぜペアーを組むのか。ペアーを組まなくてはいけない一つの理由というのは、 ペアーを組んだことによって生まれる美があるということです。 各々がきれいに踊れても、ペアーを組んだ時に全体としてきれいに踊れるかと いう問題があるのです。私も簡単に考えていまして、ペアーを組んだときには 位相を合わせれば良い、メトロノームの様に拍子を合わせれば良いだけである と思っていましたが、やはりそうではないのではないかということを提案しま して、脳の研究と関連づけて考えてみました。女性も自分自身のダイナミクス に基づいてきれいなパフォーマンスをするわけです。 また、男性も安定点を非常にうまく使っていて、安定点から安定点にダイナミ ックに踊るんです。男性も男性の美を表現するのです。ペアーを組んだときに ただ位相、拍子を合わせればいいのかというと、そういう問題ではないのでは ないかと思うんです。   今日提案するのはこういうことなんです。相手も自分も自分自身の美を踊 らなくてはならない。それで、どういうことが重要かといいますと、非常にタ イミングは重要なんですが、コミュニケーションの情報、ある部分からの情報 を、互いにうまくコミュニケーションをするのですけど、実は、男性と女性は 位相がずれている、ここが面白いわけです。同じようにタイミングを合わせて コインシデンスでは踊っていないのです。これが重要なファクターなんです。 位相がずれているときれいなダイナミクスがこの上に生ずるのですね。 美的観点からいいますと、二人が拍子を合わせてコインシデンスで踊っていた のではダメなんです。男性から情報をもらったら女性はちょっとずれて新たな ダイナミクスを作るのです。そしてその動きをまた返してやる。 その動きを男性は知った上で踊るのです。そうすると、新たなダイナミクスが 生ずるわけです。いままでに無い動き、情報、ダイナミクスが生まれて来ます。 それが美しい、このようなことを学んだわけです。   即ち、各々が異質な世界をもっていて、それがインタラクションしたとき に美しい美が創出できるような世界を創ることが出来るわけですが、そのとき は全部相手の状況を知った上で踊らなくてはならない。そして、そのダイナミ クスを自分のなかに取り込んでそれをまた相手に投げかけてやるというのが、 どうも本質らしいのです。あんまり強く引っ張ったら全部ダメになります。 また、安定点を崩すとダメなんです。しかし、新しいダイナミクスが発生した ときに、各々がもっていた安定点が、今度この新しいダイナミクスのためにず れて来る、移動して来るわけです。 やはり、脳の中でも異質なシステムがインタラクションするときに こういうダイナミクスをうまく使って情報処理するのも一つの手ではないかと、 こういうふうに思っているわけです。   理論と実験とが異質な世界をインタラクションしたときに、相手の道具だ てを全部知った上で新たな実験タスクが組めるか、新たな理論展開ができるか ということを若い人達がやってくれないと、これからの脳科学の将来はありま せん。やはり、異質の領域から新しい情報をもって来て相手のことも理解し、 自分のことも分かった上で新しい情報創出をして頂きたい。   このチュートリアルは、そういうことに焦点がしぼられているのではない かと思います。この中からいくつかのオリジナリティに富んだ考えが出て来る ことを期待しまして、挨拶を終らせて頂きます。