2日目:細胞の選択特性と分散表現 担当:阪口豊・樺島祥介 1.講義内容について  2日目は,「脳における情報表現」に重点をおいて議論する.  午前中前半の講義では,脳内での情報表現の学習原理とその実現に関する研究につ いて,主として,最近10年間に進められた情報理論的なアプローチについて述べる. ここでは,特徴抽出細胞の受容野の形状,トポロジーや発火頻度に関するスパース性 といった性質に着目し,情報の変換原理,またそれを脳内で実現するための制約との 関連性といった問題について議論する.  午前中後半の講義では,近年,注目を集めている初期視覚での contextualmodulationを中心に,そのような現象がどのような神経回路によって起 こるのかという問題意識の下で,V1野における神経連絡について生理学や形態学に 重点をおいて議論する.午前中前半での情報理論的なアプローチと,ここでの生理学 的アプローチの接点をいかに見いだすか,という点を議論したい.  午後前半の講義では,「情報量」という指標に基づいた視覚野での情報表現へのア プローチについて議論する.ここでは,情報表現が時間とともにどのように変化して いくかを相互情報量の時間変化に着目して評価する手法について議論する. 2.参考文献 ◎は必読,○はオプションである. 午前第1部 ◎Barlow, H.B. (1989). Unsupervised learning. Neural Computation, 1: 295- 311. ○Bell J.B. and Sejnowski, T.J. (1995). An information-maximization approach to blind separation and blind deconvolution. Neural Computation, 7: 1129-1159. 午前第2部 ◎Somers, D.C., Todorov, E.V., Siapas, A.G., Toth, L.J., Kim, D.-S. and Sur, M. (1998). A local circuit approach to understanding integration of long-range inputs in primary visual cortex. Cerebral Cortex 8: 204-217. 午後第1部 ◎Gershon, E.D., Wiener, M.C., Lathan, P.E. and Richmond, B.J. (1998). Coding strategies in monkey V1 and inferior temporal cortices. Jounral of Neurophysiology, 79: 1135-1144. ○Richmond, B.J., Optican L.M., Podell, M. and Spitzer, H. (1987). Temporal encoding of two-dimensional patterns by single units in primate inferior temporal cortex. I. Response characteristics. Jounral of Neurophysiology, 57: 132-146. ○Richmond, B.J. and Optican, L.M.(1987). Temporal encoding of two- dimensional patterns by single units in primate inferior temporal cortex. II. Quantification of response waveform. Jounral of Neurophysiology, 57: 147- 161. ○Optican, L.M. and Richmond, B.J. (1987). Temporal encoding of two- dimensional patterns by single units in primate inferior temporal cortex. III. Information theoretic analysis. Jounral of Neurophysiology, 57: 162-178.  Barlowの論文は主としてredundancy reductionについて,Bell and Sejnowski は主にblind separationについて論じたものである.ただし,スタッフの間でもこれ らのどちらを必読にするか迷った.Barlowは哲学,思想に重点をおいたもので,や や難解である.一方,Bell and Sejnowski は,30ページとかなり長いが,哲学より も計算理論的よりマニュアル的であり,わかりやすい.モデル系の参加者にとっては, おそらく後者の方が読みやすいであろう.ここでは,redundancy reductionという テーマをいち早く打ち出したBarlowに敬意を表して,こちらを選んだが,実質的に はどちらでもよいところである.  Somersの論文は,最近のV1の生理学,形態学の知見をベースにして作られたモ デルの論文である.題名からわかるように,V1での情報統合メカニズムを局所的な 神経回路モデルで説明しようとしたものである.  午後第1部に関しては,最適論文と呼べるものが決まらず,どれを必読論文に指定 するかかなり悩んだが,最終的にGorshonのもとを必読に選んだ.この論文は読み やすいが,この分野の研究をサーベイするという意味では不完全であることを承知さ れたい.○をつけた三つの論文は,情報量を計算するという手法を初めて提案した原 点ともいうべき論文である.したがって,方法論に関する議論は詳しいが,1部から 3部まであるという大作(全部で46ページ)なので,参加者の負荷を考慮してオプ ションにした.原点を読みたいという参加者は是非挑戦してほしい.